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日本のファンから日本の学者へ: 日本におけるポップカルチャー研究の旅【ヴィニットポン・ルジラット(ギフト)さん】

日本のポップカルチャーへの強い憧れに突き動かされ、研究生から助教へと転身したヴィニットポン・ルジラット(ギフト)さん。タイの若者に自身の知識を共有し、彼らの日本のポップカルチャーへの情熱に火をつけることに専念しています。さらに、13万8000人のフォロワーを持つFacebookページは、日本についての見識を求めるタイ人にとって貴重な情報源となっています。

でこぼこ道を行く
タイ人留学生

– なぜ日本に来たのですか? 

子供の頃から日本のポップカルチャーに夢中でした。『ドラえもん』や『パーマン』を見て育ち、日本への愛は私の人生で一貫しています。来日前は日本語力が足りなかったので、日本語を学べる奨学金制度を探す必要がありました。そんなとき、幸運にもアジアユースフェローシップ(AYF)の奨学生として、11か国からの18人の研修生の一人として選ばれました。私たちは国際交流基金の指導の下、大阪で7カ月間の集中日本語プログラムを受けました。日本語研修の後、私たちは文部科学省奨学生としてそれぞれ大学に進みました。

– 日本に来た時の最初の印象は、アニメや漫画から学んだものと一致していましたか? 

私の日本人のイメージは、着物を着て寿司を食べるというものでした。初めてスーパーに行ったとき、着物を着ている人がまったくいないのを見て、私の思い込みはすぐに覆されました。さらに、柔軟剤と洗剤の見分け方を教えてもらおうと、日本人の女性に近づこうとしたら、彼女の反応は予想外のもので、さっと逃げて行ってしまったのです。日本人が外国人との交流に不安を抱いているという話は聞いていましたが、この反応には驚きました。私の日本での最初の日の出来事です(笑)。

国際交流基金関西国際センターで日本語を勉強していた時の机の様子

– 日本に住んでいて、文化の違いはありますか? 

文化について言えば、日本人は本当によく働くと聞いていました。私は以前、日本のIT企業で働いていました。確かにその通りなのですが、成果に対して仕事に費やす時間を考えると、必ずしも超効率的とは言えません。タイでは通常、1回ミーティングをして決定しますが、日本では最終的なセレモニーの前に7回もミーティングをすることがあります。日本の仕事環境に適応することは、私にとってそれほど難しいことではありませんでしたが、時には、タイで慣れ親しんできたものとはまったく異なる「一生懸命働く」という私の考えを超えてしまうこともありました。タイ人は、人生を楽しむことを教えられるし、仕事以上のものがあることを知っています。 

また、これは個人の考え方によって異なりますが、日本では自立することがより自然なことのように思えます。大学院の外国人研究生になりたての頃、一人での昼食をとることが辛くて、何度も涙を流したことを思い出します。それまで経験したことのないことでした。タイでは、食事も、映画鑑賞も、トイレに行くのも、ほとんどの誰かと一緒にします。でも日本で数年過ごすうちに、昼食をとるのも、買い物に行くのも、カラオケで一晩中で歌うのも、一人でできるようになりました。「内と外」という概念も理解できるようになりました。これは、家族関係だけでなく、ゼミの内と外といった状況にも当てはまります。 

同じアジア圏にある国同士、共通点もあります。ひとつは先輩後輩の文化です。タイでも年長者や先輩には敬意を払います。また、日本語に似た謙譲語や敬語を使います。年功序列を重んじる、という点では共通しているので、タイ人が日本社会に溶け込むのは比較的簡単だと思います。 

 日本のポップカルチャーの影響

– 日本文化をより身近に感じ、発祥の地でその文化を目の当たりにしたとき、どのように感じましたか 

最初は、日本のポップカルチャーは大好きでしたが、日本語は話せませんでした。でも、日本語を勉強し、日本のテレビを見て、ラジオを聴くうちに、日本文化への愛情が深まりました。日本にいると、財布が痛くなるほど熱狂的なファンになることができます。例えば、『鬼滅の刃』だったら、漫画を読んだり、アニメを見たり、『鬼滅の刃』をイメージしたグッズを買ったり、ゲームをしたり、『鬼滅の刃』をテーマにしたカフェに行ったり、と。すべてを網羅した体験ができるんです。 

– 日本のポップカルチャーはタイの若者にどのような影響を与えていると思いますか? 

今日、マンガの話題になると、私たちの心はすぐに日本のマンガとそれに関連するアニメに引き寄せられます。タイ人だけでなく、世界中の人々に大きな影響を与えています。

 最も大きな影響のひとつは、日本のボーイズラブ(BL)文化がタイに進出したことです。まだBLが入ってきたばかりのころ、私の友人がBL小説を販売したところ、ポルノとの関連から法的措置に直面しました。でも、インターネットの台頭がBL小説の人気を後押しし、今ではタイの書店には数多くのBL小説が並んでいます。当初は日本の作品の翻訳でしたが、今ではタイ人作家も独自の物語を作り始めました。そして、タイのBL小説を原作に、テレビ局が映画化し、その後、これらの作品は日本にも輸出され、日本市場にもタイのBL作品が出回るようになりました。 

このトレンドは、タイのソフトパワーの重要な一面に発展しました。タイ政府もこれに注目し、エンターテインメント業界では数多くのBLドラマが放映されるようになりました。タイのBLコンテンツは日本だけにとどまらず、中国、フィリピン、メキシコなどにも広がっています。当初はタブー視されていた日本のBL小説の輸入は、タイの現代的なソフトパワーへと変貌を遂げ、国内外で脚光を浴びているのです。 

– BL小説の主な読者層は誰で、BL文化はそのようなコミュニティでどのように浸透していったのですか? 

BL小説の読者はほとんどが異性愛者の女の子で、物語は恋愛もの。BLというジャンルに限らず、日本の芸術作品には魅力的な男性が登場することが多くあります。日常生活で目にする一般的な人物とは異なるイケメン像の豊富さにも、その魅力があります。タイという国においては、BLはファンタジーの世界を体現しています。それは私たちの現実を反映したものではなく、むしろ少女たちに多様な愛の形を受け入れることを促す入り口です。時が経つにつれ、この進化は市場にその居場所を見出したのです。 

コミックマーケット

– ポップカルチャーはアジア諸国間の大きな架け橋になっていると思いますか? 

もちろんです!私の日本に対する知識は、主に漫画から得たものです。寿司屋で食事をしたとき、「コハダ」を注文して日本人の知人を驚かせたことがありました。コハダは外国人にとっては一般的なすしネタの選択肢ではありませんが、漫画で寿司に慣れ親しんでいた私は、その美味しさを理解することができました。その時点ではまだ日本に行ったことはなかったのですが、「桜」、「お花見」、夏祭りの「花火」といった言葉には馴染みがありました。このような予備知識があったおかげで、日本での生活にスムーズに移行することができました。 

『推しの子』のようなコンセプトについて、タイの若者たちにその真偽をよく聞かれます。実際に、アニメは日本の暗い部分をありのままに見せていると思います。例えば、日本でアイドルを目指している人が、業界の良い面も悪い面も総合的に理解せずにやってきたとしたら、戸惑うかもしれません。すべてがと言うわけではありませんが、漫画には日本の現実が描かれています。 

ギフトさんが選ぶ、日本のアニメベスト3 (2023年夏現在) 

夏目友人帳 -日本文化を肯定的な面と否定的な面、双方から洞察しているアニメです。「癒しアニメ」(日常系アニメのサブジャンル)に分類されるので、私は寂しくなるとこのアニメを見ます。何度も涙を流したし、毎回心が温かくなります。また、このシリーズでは、夏と冬の両方の設定があるので、両方の季節における日本の家族の生活を垣間見ることができます。 

鬼滅の刃 -アニメ制作の進化、次のステージを象徴しています。様々な要素がシームレスに融合し、3Dで非常にうまく作られています。もちろん、日本文化も紹介されていて、日本の美学を体現したような絵に惚れ惚れします。街を歩いていると、時折アニメのシーンを思い出させるものを見つけることがあります。面白いことに、同じ風景を日本人の友人たちは「いやいや、それは典型的な日本文化だよ」と言います。この対比によって、私は多くのことを学ぶことができました。 

一休さん – タイの親が息子に見習わせたい、聡明で母親思いの少年の物語。この物語は日本人の生活に深く入り込んでいます。 

面白いことに、『サザエさん』のように日本で絶大な人気を誇りながら、タイではローカライズされていないアニメがあります。私も最初は人気の理由が分からなかったのですが、数年間日本に滞在しているうちに、なぜなのか十分に理解できるようになりました。 

タイ人のための日本紹介Facebookページ

日本のライフスタイル・インフルエンサーとしての称号を受賞

― タイと日本をつなぐプロジェクトについて教えてください。 

光栄なことに、日本についての見識を求めるタイ人のための情報源となるFacebookページを通じて、2022年に日本のライフスタイルにおけるインフルエンサーの称号を在タイ日本国大使館からいただきました。私は2019年にこのページを立ち上げ、日本のニュースをタイ語に翻訳することに主にやっています。このプラットフォームを立ち上げたきっかけは、台風が日本を襲うたびに、タイでの報道が過度にセンセーショナルになりがちだと気づいたことでした。そこで私は、日本で放送されているのと同じ情報をタイ語に翻訳し、共有することにしたのです。私の目標は、日本での実際の出来事と、それが日本の人々にどのように受け止められているかを、より正確に理解してもらうことでした。 

また、日本に住むタイ人やタイ人観光客に、実践的なガイダンスを提供することにも専念しています。自然災害を乗り切るためのアドバイスや、日本で発生するさまざまな問題への対処法も含みます。例えば、COVID-19が大流行したとき、私は日本の文書をタイ語に翻訳する仕事を引き受けました。これは、タイ人が日本国内で取るべき行動や、パンデミック後の入国手続きを理解できるようにするための取り組みでした 。

現在、私のフェイスブックは138,000人のフォロワーがいます。多くのタイのメディアが私の専門知識を認め、日本に関する事柄についてインタビューを求められることも多くあります。 

ヴィニットポン(石川)ルジラット(ギフト) 

青山学院大学 総合文化政策学部 助教。2020年東京大学大学院博士課程修了。138,000人のフォロワーを持つFacebookページを通じて、日本のライフスタイルに影響を与えるインフルエンサー。 

Facebook: https://www.facebook.com/GiftchanNews/

取材・文/Mimi Le 写真提供/ヴィニットポン ルジラット(ギフト)

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Food & lifestyle Education
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